なんだかんだでやっぱり





すねてるきみ、

笑ってるきみ、

怒ってるきみ、

歌ってるきみ、



きみには教えてあげないけど、
みんなだいすき。










                          たまに呆れてしまうけど

                                             それでもやっぱりきみがすき。







次の魔法史の授業に遅れそうで、私たち三人は急いで長い廊下を走っていた。両手に抱えた重い教科書が邪魔で走りにくい。私の目の前で揺れている赤毛――いや、それを持つ少年、ロンが首だけこっちに回して叫んだ。

「ハーマイオニー、急げっ」

「充分急いでるわよ!」

教室が見えてきた。ハリーが最初に辿り着き、ドアをガララッと勢いよく開ける。それに続いてロン、私と中へ飛び込んだ。

みんなはもう席について教科書を机の上に出していた。全員分の視線が、私たちに降り注ぐ。黒板の前にふよふよ浮いていたビンズ先生が、コホン、と小さな咳払いをした。

「先生すみません……来る途中で階段が変な方向に動き出しちゃって、すっごく遠回りしなくちゃならなかったんです、僕たち」

ハリーが先生に申し訳なさそうに謝った。もちろん、真っ赤な嘘だ。私はあんまり納得いかなかったけど、これで点数が引かれないならいいかなとも思ってしまったり。いつのまにこんな考え方をするようになったのかしら?

先生がなんとか許してくれたので、私たちは後ろのほうのあいている席に並んで座った。

「えー、では教科書の372ページを開いて……1700年台におけるゴブリンと魔法使いの関係について……まず、はじめに学ぶことは……」

そうして、ビンズ先生のだらだらとした説明がはじまる。みんなは最初から聞く気もなく、ノートに落書きをしはじめたり、隣の子とひそひそ声でしゃべったり、居眠りしたりしている。隣にいるロンとハリーも、さっそく二人で落書き遊びをはじめたみたいだ。

まあ、私はきちんと説明を聞いて、その内容をノートにとるのが当たり前だけど。



「ねえハーマイオニー」

私が目をこらして黒板に書かれた細々とした文字を必死でノートに写していると、今までずっと背中を丸め込んでハリーと遊んでいたロンがむくっと起き上がって話しかけてきた。

「何、ロン」
「あのさ、今日の分のノートあとで写させてくれよ」


……またこれか。もう毎回毎回ロンには(ハリーもだけど)おんなじことを言われている。少しは自分で根気よく授業聞こうとかノート写そうとか思わないの?まったくいつまでたっても甘やかされたロニー坊やなんだから。


「ダメ、ちゃんと自分でやりなさい」
「ええーお願いだよ!ね、今日だけでも……頼むよハーマイオニー」
「そんな目で見たってダメよ。もう何回も助けてあげてるでしょ」
「……ちぇっ。ハーマイオニーのケチ。僕がどんな点とって落第しようと君にはどうでもいいんだ」
「だってあなたが勉強しようとしないのが悪いのよ」
「もういいよ……」
「――と言いたいところだけど、しょうがないわね。今回だけよ。まったくもう、人のばっかり写してたって試験の点はあがらないわよ」


そう、なんだかんだ言っても、結局私はこうしてロンに負けてしまうのだ。彼がありがとうと言って再び私に背を向けても、どうしてもこれ以上怒ることができない。このままじゃいけないことくらい分かっているから、いつかはどうにかしないと……。

はあ、と小さく溜め息をついて、私はまた羽根ペンを動かしはじめた。







「はい、ワントゥースリー!」

フリットウィック先生の杖が、ヒュッと空を切る。それと同時に、みんなの口から歌が流れ出し、広い大広間に響き渡った。


今日は新入生歓迎のための合唱練習。寮別に分かれて、こうやってみんなで練習を重ねているのだ。歌はホグワーツらしい奇妙なテンポとリズムの曲や、ちょっぴり難しいダークな曲など、幅広いジャンルにわたっている。

私のパートはソプラノ(当たり前ね)、男の子たちはみんなアルトかバス。ハリーとロンはアルトを受け持っている。

全員で声を合わせると、すごく不思議で魔法にかかったような気分になるのだけど、一人ひとりを見ていると、小さな声が集まってこういう音を作り出しているんだと改めて感じて、一人感動していたり。

生徒たちの中で、ひときわ目立っているのは燃えるような赤い髪――もちろんロンだ。背も人一倍ひょろ長いから、どこにいたって目立つことは目立つんだけど。歌っているとき、なぜだか彼のことをよく見てしまう。ロンは魔法史のときとは違って、このときばかりはちゃんと歌っているようだった。

真剣に歌っている横顔は――結構、可愛かったりもする。あれ、私何考えてるのかしら!?ダメダメ、歌に集中しないと!はいドレミファソー。なんなの、まったく。

フリットウィック先生が再びかけ声をかけて、合唱はピタリと気持ちよく終わった。


「ふう、疲れた」

ロンが暑くもないのに手で首元をあおぎながら言った。ちょうど時間割を引っ張り出して見ていたハリーが嬉しそうに口を開いた。

「ロン、次は珍しく3時限続きで自由時間がある!なんかして遊ぼうよ」
「やった!じゃあチェスしようぜ」
「ええ……ロンにはすぐ負けるからなぁ……」

ハリーが口を尖らせて言う。

「じゃあハーマイオニー、僕と対決するか?」
「えっ?」

いきなり話を振られて、私は反応が遅れてしまった。ロンとチェス対決ですって?そんなのやる前から結果なんて見えてるじゃない!絶対嫌だ……けど。

ロンのとても生き生きとした顔を見てしまうと、断るのにはなかなか難しいものがあった。断りでもしたらきっとまたすねてしまうだろうし。喧嘩になったら嫌だわ。喧嘩するほど仲がいい、とかバカみたいなことをみんなが私たちにからかって言うけど、そんなの私は信じないんだから。

ああ、ロンがもう勝手に私の手を引いて談話室に向かってるわ。今回もまた「しょうがない」で許してしまいそう。

私、なぜだか本当にロンには弱い。単純で直進的なその考えとか行動をいつも見ていると、またこんなバカやって、とか呆れることもあるけど、そんなところが私を「しょうがなく」させるのよね。
あーあ、この調子じゃ明日の変身術のレポートを書き終わるのは夜になっちゃいそうだわ。まあ、しょうがない、か。












ロンが気になるんだけどよくわかってなくって、そんでもってロンの色んなところに呆れつつもなぜか許してしまうハー子の心情をうまくあらわせてればいいなあと思います。

06/9/25 writing by saizaki

お題提供→
Traum der Liebe様