もっと言って。

もっともっと、

たくさんの愛と言葉をちょうだい。
そうしないと、私はすぐに不安がるから。









Say more!






「ねえ、私のこと好き?」


 私はちょっと可愛らしく小首をかしげて、目の前の彼に尋ねた。彼は少し困ったように笑ってから、「好きだよ」って言ってくれる。いつものように。それでも私はもう一度、おんなじことを聞いてみた。

「ほんとに、私のこと好き?」
「好きって言ってるだろ?好きじゃなきゃ付き合わないよ」

 そう言って、彼はまた微笑む。私は彼の笑い方が好き。ちょっぴり寂しそうで、目が「好き」って言ってくれてるような、こういう笑い方。一度見ると病みつきになって、何度でも何度でも同じことを繰り返す。こう聞けば、彼は笑ってくれるから。


「私も大好き」
「うん。俺も大好きだよ」
「……も一度言って」
「何回聞けば気が済むの?好きだよ。大好きだ」


 ほら、また。彼の長い睫毛が影をつくる。私はにっこり笑って、彼の手に私の手を重ねた。指が自然と絡まる。そのまま私はソファーにごろんと横になった。彼が私の髪を優しく撫でてくれる。ああ、幸せだなあ。
 だけどこうしていても、たまに不安になることがある。あたたかい時間を過ごせば過ごすほど、その不安は私の心の中を支配していくのだ。ちょっとずつちょっとずつ、幸せな心が乗っ取られていく。

 彼はほんとに私のことが好きなのかな?こんなに好きって言ってくれてるんだから、好きに決まってるじゃない。だけどどうしても心配なの。怖いんだ。幸せだからこそ怖くてたまらなくなるのよ。いつかこれが壊れてしまうかもしれない。彼のくれる言葉が全部ウソだったら?わがままばっかり言って、鬱陶しがられていたらどうしよう。好きだからこそ感じる不安。



「人生って、『楽しいこと』と『悲しいこと』の割合は一緒なんだって。全部で100パーセントだったら、それぞれ50パーセントずつ。バランスよく入り混じってるんだよ。だから、悲しくて悲しくてしょうがないときも、もう少し我慢すれば楽しいことがやってくるって思えば、ちょっとは楽になるよね」


 なにかの本で読んだと、ある日彼が話してくれた。それを聞いた私は、内心すごく怯えていた。今の幸せは、もうすぐ終わってしまうのかな?「悲しいこと」が、私たちの幸せを壊しに、ハンマーを持ってやってこようとしているの?そんなの、嫌だ。この幸せの分だけ悲しい目に合うなんて。だって、それぞれが平等なんでしょう?

 嫌だよ、絶対に嫌だ。


「『悲しいこと』、飛んでけ!」


 私はひとり、そう叫んだ。彼が驚いて私を見る。いきなりどうしたの、と顔が語っていた。声は天井に吸い込まれて消えていった。空の上に届けばいいけど。ずっとずっと先のいつか、すごく悲しくなったって構わないから、どうかお願い。今この瞬間だけは、彼のそばにいさせてください。幸せでいたいんです。


「ねえ……」
「好きだよ?」


 あ、分かってくれた。聞く前に言ってくれた。私が今、一番聞きたいあなたからの言葉。思わず、口元が緩む。


「えへへー」
「何、気持ち悪い」
「ひど!何それー失礼。可愛いって言ってよね!」
「はいはい、可愛い可愛い」
「はいは一回!可愛いも一回っ」
「好き好き好き」
「……それは許す」
「わがままなお姫様だこと」


 やっぱりこの幸せは誰にも渡したくない。私は不覚にもちょっぴり顔を赤くしながら、彼にぎゅうと抱きついた。


「もっと言って」
「好き、好き、大好き」
「……もっと」

「愛してる」



 私と彼は例外で、幸せのほうが悲しいことに勝つのかもしれない。そう思えた。











名前が出てこないの初挑戦。
結構いいかも。
なんだかこれは思いつくままに書いていたら、すぐに終わってしまいました。
こういうほのぼのしたのが好きなんです。

06/9/26 writing by saizaki