突然、君に見惚れて
水色を基調にして綺麗にまとめられたパンフレットを、俺は友達とわいわい騒ぎながら覗き込んだ。
「高丘、こことか面白そうじゃね?近いし」
「そうだね、じゃあ行ってみよう」
今日、俺とその友達の三人は、憧れの高校の文化祭に来ている。
毎年十一月に行われる文化祭、受験生の俺たちにとって、大事な学校の資料だ。
頭がよくてマナーもなってる、制服の見た目も悪くないし、不良なんてもはや死語。
それらの条件に当てはまるような人しかいないせいか、どうもこの学校には顔が整った人が多いような気までしてくる。
まぁ、それは憧れるあまり俺が作り出した、単なる思い込みかもしれないけど。
どっちにしろここに合格して、ここの校章を立派に受け継いで通いたいという信念は変わらない。
当然第一志望校、見事受かってみせるぞ!と俺は人一倍意気込んでいた。
大小様々な人波に半ば流されつつも、俺たちは成長期に忘れてはならない食欲につられてピザ、ホットドック、カレーうどんにたい焼き、クレープ(ちなみにチョコバナナ味だった)やアイスクリームなど手当たり次第に食べ、すごく怖いと評判のお化け屋敷でぎゃあぎゃあと叫び、きちっとした調べものの展示も見に行ったし、それに飽きればバスケの試合を見て一緒に興奮したりもした。
「俺らちょっとトイレ行ってくるわ。高丘お前、ちょいここで待ってて」
ようやく俺たちにも疲れの兆しが見え始めてきた頃、校舎の一階の端でまたなにか食べようかと店をめぐっていると、友達たちがすまん!とそう言って俺が何か言う暇もなく、すぐそばにあるトイレへと駆け込んでいった。
俺はおう、と無気力に片手をあげて(もう声が届かないことは分かっていたけど)、壁に背中をもたれかけさせた。
急に一人になると、周りのがやがやというひしめき合う声が、今までよりも大きく聞こえる気がした。俺はパンフレットでも見ようかと、肩からぶら下がっている鞄に手を突っ込んだ。
「すみません」
突然、ひときわ大きく声がした。
俺はちょっと驚いて、パッと鞄から目を離して顔をあげた。女の子が目の前に立っている。まったく知らない子だった。
「……なんですか」
「あの、家庭科室ってどこにあるんですか?」
俺はぽかんと口を開いて、困ったような表情のその子を見た。アーモンド形の瞳が、不安そうに揺れている。癖なんだろうか、しきりに長くてサラサラの黒髪の先を左手でいじくっていた。
それにしても、なんでそれを俺に尋ねるんだろう。もしかして俺をこの学校の生徒だとでも思っているのかな?というか地図は持ってないのか。
まあ家庭科室ならさっき見たから場所は大丈夫、と俺は思った。
「これ、見ます?」
俺は手に半分持ちかけていたパンフレットを取り出し、女の子に差し出した。彼女はちょっとびっくりしたようだったが、すぐに嬉しそうな笑顔をみせた。
「いいんですか?ありがとうございます」
「だけど、多分それ見てもあんまり意味ないと思うよ」
「え?」
どういうことですか、とその子は続けようとしたが、俺はそれよりも早くス、と右のほうを指差した。
「そこの角曲がったら、すぐあるからさ」
俺は可笑しそうに笑って言った。彼女は俺の示したほうを覗き、そこに家庭科室があるのに気がついてパッと顔を明るくさせた。
「よかった……ありがとうございます。ごごめんなさい、パンフレット返しますね」
「あ、うん」
彼女は薄いパンフレットを俺に手渡した。俺は受け取るとき、彼女の頭越しに友達がトイレから出てきかけているのが目に入った。慌ててパンフレットを鞄に押し込む。
「それじゃ」
小さく会釈をして、彼女はタタタと角のほうへ小走りで走っていった。俺がそれをなにげなく目で追っていると、ポンと突然肩を叩かれて前に顔を戻した。校舎の中のこもっているたくさんの声や雑音が、いきなり音量を増した。トイレから戻ってきた友達は、妙にニヤニヤして俺を見ている。
「何さっそくナンパしてんのさー」
「ナンパじゃないよ、道聞かれただけだって」
「つまんねえの」
笑いながら、俺たちはまた歩き出す。
続いてみました。微妙に。
ちょっと視点をちょっと前の高丘にチェンジ。まあアレですね、最初に会ったときです。逢希と。
この続きはもうないです。中途半端ですね(オイ)。
気が向いたら書くかもしれませんけど…!
06/4/3 writing by saizaki