退屈なのは、










 後悔なんてしていない。するわけがない。だってようやく邪魔者を消せたんだから――これで僕の新世界への道が開けるんだ。目障りな奴はもういない。僕が――僕があいつを殺した。
 神に逆らったお前が悪いんだよ、竜崎。そして神によって罰を下された。元から僕たちは相容れることなど出来ない関係だったんだ……。
 なあ竜崎、そうだろう?




 早朝、空が白み始めた頃。真っ白な雪が静かに降り続けていた。いつもはただ殺風景なだけのこの場所も、このときだけは一面銀色に染まる。夕陽に照らされれば、雪の一粒一粒がキラキラと輝き、言葉では表現出来ないような美しさだ。
 そんな絵に描いたような景色の中、僕は一人、ザクザクと音をたてながら雪の降り積もった道を踏み締めていた。


 昨日、竜崎が死んだ。いや、殺された。僕の綿密な計画通り、レムに名前をデスノートに書かれて。
 あっけなかった。世界一の名探偵と呼ばれるLも、あんなにあっさり死んでしまうんだな……他の人間と同じように。死ぬ間際のお前の表情と声が、いつまでも頭から離れない。まるで忘れさせないとでも言うように……。死んでもなお僕に付きまとうなんて、相変わらずしつこい奴だよ、お前は。



「月、なんか浮かない顔してるな。どうしたんだ?ようやくあいつを殺せて嬉しいんじゃないのか?」

 リュークが僕の後ろに浮きながら、不思議そうに尋ねてくる。僕は首に巻いた黒いマフラーを口元まで引き上げ、はーっと息を吐いた。

「もちろん嬉しいさ、リューク。目障りなのが消えて、今本当にスッキリしてる」

 ザク、ザク。僕の足音だけが耳に入る。リュークは怪訝な顔をして首をかしげた。

「……じゃあなんで、そんなに悲しそうなんだ?」

 ザク……ザク。僕は足を止めた。音が消える。

「……悲しくなんてないよ」
 ぽつり、と雪が地面に落ちるように呟く。

「ただ……退屈なんだ」

 退屈。それはデスノートを拾う前にずっと感じていた感情。だが、ノートを使い始めてからというもの、そんなものを感じたことなど一度もない。毎日が戦いだったから。そしてその戦いに今、僕が終止符を打ったんだ。
 それなのになぜ、今さら?退屈で退屈で仕方ない。何をするにもやる気が出ないし、どことなくぼうっとしているような気もする。一体僕はどうしたっていうんだ?


 空を見上げれば、しんしんと降り続ける雪の粒が顔に当たった。僕に冷たさだけを残して、一瞬のうちに溶け去ってしまう。



 竜崎、聞いているか?
 どうしてお前はLとして僕の前に姿を現した?いっそのことずっと「L」でいればよかったのに。だけど僕はお前と出会ってしまったんだ。例え偽名だったとしても、竜崎は僕の中で竜崎でしかなかった。

 こんなにもつまらなくてやる気が起きないのはなぜだろう?まるでお前みたいじゃないか。あのとき、もし僕がお前を元気づけようと第三のキラの情報を洗い出さなかったら、僕たちはまだ並んで捜査をしていたのだろうか?あの冷たい金属の手錠で繋がったまま、いつものように嫌みを言い合っていたのだろうか?
 ああ、ひどく懐かしい気がするよ。たった二日前のことなのに。時間は過ぎるのが速いのか遅いのか……一緒に捜査していたときはあんなに速く走って僕を焦らしていたくせに、竜崎が消えた途端、重りでもつけられたかのようにその速度を落とすんだ。
 理由を知ろうとは思わない。それはなぜかって?正直に言うと、真実を知るのが怖いからだ。



「僕らしくない」
 自ら苦笑して呟く。

「そんなこと分かってるさ」

 僕にしか聞こえない音を立てて、リュークがその黒い翼を羽ばたかせる。

「だけど、僕にもこの感情が何なのか分からないんだ」


 知っているなら教えてくれ。





 雪の中に落ちた雫は誰の為に。












いなくなって、初めて気がつく感情。

書き終えてから気がついたんですが、竜崎が死んだのは冬じゃありませんね…
バカですみません、ここはあえて突っ込まないで下さい(汗)

06/1/8 writing by saizaki